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yuuの一人芝居

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星に願いを 4

星に願いを  4

 ラルは羊を草原に連れて行くと一人で空と山が重なる一番高い一点を眺める事が多くなったのです。
あの夜からサラシャは夢の中に現れなくなっていた。ラルはサラシャがどうしているのだろうと思いました。お父さんやお母さんにあったと言っていたが本当だろうかと思いました。
 ラルの心の中にはまだサラシャのことが大きな場所をしめていたのです。もう会えないと思うと寂しくてしょうがなく、まぶたを閉じて思い出そうとしました。なぜか思い出せなかったのです。
 そんな日が何日も何日も続いたのです。風の日も雨の日も嵐の日もラルは見詰め続けていました。
 朝から晴れたいい天気だったのです。突然見詰めていた一点が黒く染まり空を覆っいました。稲光が光り雷が鳴りだんだんと近づいてきました。羊たちは驚いてみんな集まってうずくまっていました。光がラルの側に落ちたのです。ラルは吹き飛ばされてしまいました。
 ラルは空を飛んでいましてた。草原はいつもの輝きで羊が無邪気に遊んでいるのが見えました。それから真っ黒の雲の中に入ったのです。少しの間であったようにも感じるが長いようにも感じました。時間の経過ははかることは出来なかったのです。
 雲を突き抜けたのか目の前に今まで見たことのない風景が広がりました。色々の花が咲き乱れ見たことのない鳥たちが飛んでいました。空には雲一つなかったのです。
「ラル、来ては駄目、来ては駄目なのよ」
 どこからかサラシャの声がしました。だがそう言われてもラルの意志ではどうにも出来なかったのです。
「いつもいつもサラシャの事を考えてきみの居る一番近いところを眺めていたのだよ」
「私はいつもラルの側にいるわ。ラルには私が見えないけれど私はよく見えるの。悲しい顔のラルを見るのは辛いは、笑顔のラルが好きよ。・・・まだラルはこの世界にくる事は出来ないの。もっともっとラルの世界で笑ったり泣いたり沢山のことをしなくては駄目なの。
 ラル、初めがあれば必ず終わりがあるの。ラルを見守るのもあと僅かなの。これは神様との約束なの。ラルは私の事を忘れて、もっと勉強をして立派な人になるのよ。ラルが人を愛し愛されて子供達に囲まれ、みんなを幸せにして初めてここに来られるの。
 私はラルに出会えただけで満足なの。それが私の定めであったから。
もう、ラルの邪魔はしないは・・・忘れる、だから忘れて・・・。帰るのよ、早く帰るのよ。帰りたいと思ってそうすれば帰れるから・・・」
「そんなの無理だよ。サラシャにあいたいから・・・」
「それも時が経つと忘れられるわ」
「だめだ、出来ない」
「今、私はさようならとしか言えないのよ。分かって・・・帰りたいと思ってそうすれば帰れるから・・・」
「・・・」ラルはおじいさんのことを思い出したのです。
「ラル、どうしたのじゃ」
 突然ラルはおじいさんの声を聞いたのです。
 ラルはあたりを見渡しました。嵐の後は何も残っていませんでした。空は何処までも青く澄んでいて、羊たちも草を食べていました。何処を探してもおじいさんは見つかりませんでした。
 そのことをおじいさんに言いました。
「人は何かを思い詰めると幻を見るものじゃ。山と空の間になにか忘れているものがある様な思いを感じるものじゃ。そこに何かあるように思えるから人はいきられるのかもしれん。
 人にとって一番大切なことは今を懸命に生きるという事じゃ。なくなった人もそう願っておる。ラルが元気でないとその人が悲しむぞ。その人を幸せにするのはラルが幸せになることなのじゃ」
 おじいさんはそう言ってパイプの掃除を始めました。
 ラルはおじいさんの穏やかな顔を見ていました。それは幸せそうな顔でした。
 ラルはそれから空と山が重なる一番高いところを眺めなくなりました。
サラシャの事は時に思い出していました。


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